ON THE CAKE

She’s Electric

 

 

21歳の夏

の夜

かな

 

そのとき付き合っていた彼女が

飛行機の見える場所でキスをしたいと言い出したから

僕は車を走らせた

彼女は助手席へ乗り込み

OasisのMorning Gloryを取り出し

カーステレオに挿入した

 

僕は言った

「夜なのにMorning Glory?」

「ばかね。これはそうゆう意味じゃないのよ」

 

車が空港へ向かう直線道路に差し掛かり

CDがTrack10に達したころ

僕はバックミラーに目をやった

「STOP」彼女が言った

「え?」

「そのままでいて」

「いや、危ないだろ」

「大丈夫。私がハンドルを握ってるから」

「…」

僕は彼女の言う通り

バックミラーを眺めたまま

アクセルだけを踏み続けた

Track10が終わる頃

彼女がぼそりと言った

 

「私、妊娠したのよ」

「は?」

 

飛行機が

フロントガラスを

僕の頭上を

通過した

コウモリ

 

遠く遥か向うに

ほんの小さな光りが見えるけど

辿り着けるのは明日じゃない

僕はまだこれから

沢山の退屈な明日を超えてゆかなければならないのだ

 

僕は僕がまだ心の奥底で

できれば引き返したいと思っていることを知っている

だからこそ僕は足を速める

これから行く道が

今まで来た道よりも短くなったとき

もうそんなことは思わなくなるはずだから

 

あと少しで夜が来る

あの小さな光さえも消え失せて

本当の暗闇が訪れる

しかし僕に眠る事は許されていない

視力に頼る事ができなくなり

皮膚感覚でしか自分という存在を確かめられなくなっても

僕に歩みを止めることは許されていないのだ

僕は自らの身体を触りながら

かつて光が見えていた場所へと歩いてゆく

 

暗い夜は

僕が今まで培ってきた虚像を少しずつ削ぎ落とし

心を目を開眼させるだろう

静かな夜は

僕が今まで培ってきた偏見を少しずつ削ぎ落とし

死というものを再確認させるだろう

僕は他人の誰とも戦うことはなく

過去の弱く愚かな自分と対峙するだろう

恋人に別れを告げ

友に別れを告げ

思い出に浸ることもなく

変わりゆくこの60兆個の細胞と共に

心を変革させ続けるのだ

 

夜はもうそこまで来ている

僕はベルトを締め直し

ショルダーストラップを調整する

靴ひもを結び直し

少量の水を飲む

明日今日より少しだけ大きな朝を迎えることができたなら

少しだけ眠ろう

もう何日も何も見ずに何も聞かずに来たから

夢は見ずに済むだろう

ただ生まれたという事実を枕にして

ただ死にゆくという事実に包まって眠ろう

そしてまた

コウモリのような透明な気持ちで歩くのだ

 

よし

何にしろとにかく今は

この夜を超える事に集中するとしよう

この詩はSentimental Communication のArt Work に記されている。

21時の電話ボックス

 

 

呼び出し音 白い息

曇ったガラス 手で拭う

 

白い線 道路 冷たい道路

野球場 人気のない住宅街

微かに聞こえた若者の笑い声

 

風 すきま風 乾いた咽 ストロボ

ストロボチックな記憶 どこへも行けない恋心

何も考えられない頭 まだ止まない呼び出し音

電話を切り 一度電話ボックスを出る

 

煙草を吸う(シュッ、シュッ、ビチビチ、スー、フー)

kawasaki 250 TR エンジンはまだ かなり熱い

雪が降るまであとどのくらいあるだろう

今年は全然乗れてない

路肩に座り 星を眺める

 

そういえば鍵を締めてこなかった

洗濯物も 取り込んでない

サボテンにも水をやっていない

どうしようか 一度 帰ろうか

一度帰って また来ようか

僕は電話ボックスに目をやる

いや もう一度だけ 電話をしてみよう

 

(スー、フー)

最後の一服

空へ消える紫煙

白い息

そして専門学生は死んだ

 

 

彼が専門学生の顔を15発殴った夜

君はあの見せかけの部屋の片隅で

夜なのにシリアルを食べまくっていた

 

だいたい君は“なのに”が多すぎる

図書館なのに本を読んでいるとか

映画館なのに映画を見ているとか

 

そのうちににあの雪道に落ちていた硬い、90度に曲がった針金みたいに正常になりすぎて、角になったその部分に論理的思考を擦り付けながら「小学生!」とか「高校生!」とか叫ぶようになるよ

 

だって今日もあの白い悪魔の足音は、誰もいないオフィスに響いてるんだから

「中学生!」

だって今日もあの白い悪魔の足音は、誰もいないオフィスに、鳴り響いてるんだから

ノンアルコールビールの酔い方

 

 

 僕はもう酒は飽きてしまって、ほとんど飲まなくなったけど、くそまずいノンアルコールビールと、昔上海で飲んだ、くそぬるい瓶ビールならたまに飲みたくなる。上海には簡単には行けないから、そんなとき僕は、くそまずいノンアルコールビールを買ってくる。

 それなりに酔っ払ってきたなと感じてきた頃、僕はいつもA君に電話をする。A君は基本、電話には出ない。だから僕はいつも留守電にメッセージを残す。事前に書いておいた作文を読み上げるのだ。決まったテーマはないけれど、大抵はテレビの話とか、バスケットボールの話が多いように思う。

 A君は僕が眠った頃に電話を返してくる。僕はたとえその音に目を覚ましたとしても、その電話には出ない。だからA君も僕に留守電を残すことになる。

 しかし困ったことが一つだけある。僕にはA君が何をしゃべっているのかが、全くわからないってことだ。A君はスペイン在住の生粋のスパニッシュなのだ。僕にわかるのは、一箇所だけいつも同じフレーズが出てくるってことだけだった。

 

 先週、同僚の奥さんがコロンビア人だということが判明して、やっと留守電の内容を知ることができた。大方の内容は僕の作文に対する感想らしい。(要するにA君は喋れるかは別として、日本語がわかるってことだ)A君が僕の作文を楽しみにしてくれていることもわかった。しかしいつも出てくるフレーズの意味は、まったくもって訳のわからないものであった。

 

それはこう言っているらしいのだ。

 

“彼女が去ったのは、僕の小指が爪楊枝みたいだからだ”

 

それは唐突に、なんの脈絡もなく発せられる言葉らしい。

 

その日以来僕は、なんだか気を使って電話をするようになってしまった。

透き通るような黄色

 

 

君たちが透き通るような黄色だったということを

僕は忘れないよ

 

君たちが透き通るような黄色になったということは

君たちがもうすぐ落ち

道路や草むらの上や

下水道の柵にはさまり

君たちが粒子になるってことだけど

それでも僕は

君たちのことを忘れないよ

 

good-bye

僕が同じように粒子になる日まで

good-bye

僕の粒子が君たちの粒子に出会うその日まで

 

もっともその時

僕はもう僕ではなく

君たちももう君たちではなくて

僕と君たちが

何か同じものの一部になっているって可能性も高いわけだけど

それでも僕は

君たちのことを忘れないよ

 

でもうれしいな

また楽しみが一つ増えたわけだから

だって僕は

君たちのその

透き通るような黄色に

長い間憧れを抱いていたんだ

Happy Birth Day 明日の僕

 

 

バイバイ

バイバイ

飛行機が飛んでゆく

 

バイバイ

バイバイ

僕の知らない国へ

 

バイバイ

バイバイ

友達が飛んでゆく

 

バイバイ

バイバイ

僕の知らない明日へ

 

このフェンス

このフェンス何様だぁ! ああ、 ぁぁぁあああああああああ!

 

僕は明日16歳になるけども

僕の友達はまだ15歳

風になりたい

 

 

すべてが風のようなら

何処にも座れない

何処にも立てない

何処にも寝転がることもできない

 

自分さえも風だから

何ににも触れられないし

何かを掴むこともできない

何かを食べることもできないし

セックスをすることもできない

 

僕はそういうのを求めてる

他の風と同化し

個性やアイデンティティーなどというヘンテコな概念を失くし

ただ風の中で、風と、風であることに徹したい

 

自分と環境という境界線をなくし

ムーの大群みたいに横滑りして

永遠に続くランニングマシンみたいに

終わりに怯えることもなく

ただただ透明であるということを追求したい

ダイアモンドよりも純粋で

水よりも柔らかく

太陽に支配される事もなく

自由に浮遊していたいんだ

 

風になりたい

風になりたいよ

 

でも焦ってはいけない

いつか嫌でもそうなるのだから

僕はそれを早める方法をいくつか知っているけど

それがルール違反だってこともわかってる

だからその日まで

人間であるという熱を楽しむことに決めたんだ

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